日本酒は各地で造られ、その地域に根付いて飲まれていくものです。
酒蔵があるその地域でしか飲めないお酒というのは多々あります。
そんな中、そのお酒を造っている酒蔵では飲めない日本酒やそのお酒を造っているのに、その地域では売らない日本酒も稀に存在します。
それが今回ご紹介する北海道の高砂酒造で造られている「えぞ乃熊」という銘柄です。
一風変わった日本酒ですが、そうなった経緯も含めてご紹介します。
本州に発信するために造られた「えぞ乃熊」
北海道の高砂酒造は、北海道第2の都市、道東の旭川市にある酒蔵です。
主に銘柄は国士無双という、麻雀好きにはたまらない銘柄名のお酒を主に造っています。
本州などにも、主に問屋から流通している日本酒なので、スーパーなどで見かけることもあるかもしれません。
その高砂酒造の特約商品として、「えぞ乃熊」があります。
このえぞ乃熊ですが、北海道の日本酒ながら、基本的に北海道では買えません。
不思議なことに、製造元の高砂酒造に問い合わせても紹介してくれません。
銘柄が出来た過程というのが少々複雑な面もあります。
通常、日本酒を造るのは酒蔵の人々や杜氏さんです。
昔から造り続けられているお酒が、今でも飲まれ続けている場合もあります。
それとは別に、現在では「こうした日本酒を造りたい」「こういうターゲットに飲まれるお酒をつくりたい」という、酒蔵のニーズを形にしてくれる相談役のような人、いわばお酒のコンサルタントをする人が、わずかながら存在します。
そのコンサルタントが発端となり、本州に発信できるような北海道の日本酒を造ろうというコンセプトで出来たのが、この「えぞ乃熊」でした。
なのでえぞ乃熊の場合、そもそものターゲットが地元の北海道ではなく、本州の人たち向けなので、北海道では売らないということになったのです。
叩かれて美味しくなってきた「えぞ乃熊」
発売からまだ10年も経ってないえぞ乃熊ですが、出来始めの頃は、散々な評価でした。
本州向けに造ったとはいえ当時は、北海道の地酒は本州の地酒に比べて、あか抜けていない地味で酒精が強く、風味が悪い日本酒が多く、えぞ乃熊も「こんなまずい酒は売れない」とまで言われたらしいです。
それから数年経ち、原材料米の変更や、酵母の変更などブラッシュアップを重ね、少しずつ本州の酒屋さんでも扱いが増えていったそうです。
写真は旧ラベルの、18号系の酵母を使って、北海道産の酒米、彗星を使った純米酒のえぞ乃熊です。
こちらは現在は終売になっています。
今現在の「えぞ乃熊」
現在では、純米と純米吟醸の2種類のえぞ乃熊となっていて、お米も北海道のお米である彗星ときたしずくを使用しています。
ラベルも旧ラベルのような、日本酒らしいラベルではなく、可愛いらしいポップなラベルになりました。
白いラベルの彗星を使った純米は、風味は辛くもなく甘くなく、米がしっかり溶けているような、ほど良い旨味を感じます。
彗星というお米自体は、スッキリとした味わいのスルスルとした飲み口になるようなお米なので、生魚や冷や奴などと相性が良いです。
飲み方は常温や冷やして飲むのがおススメです。
黒いラベルのきたしずくを使った純米吟醸は、新ラベルになってから造られた新商品です。
きたしずくというお米は、ここ2~3年で出てきた、北海道の新しい酒米です。
雄町の系譜を持つお米で、スッキリさの中に複雑な味わいが感じられるのが特徴で、まだまだ発展途上な酒米です。
彗星とは異なり、風味はやや甘く、味わいも彗星に比べてお米の甘みが感じられます。
今まであった北海道の日本酒に比べて、本州の酒蔵が造る日本酒をイメージしているのが分かる味となっています。
純米に比べて香りも甘く強いので、軽めな洋食や、串焼きやジビエ料理などに合わせやすいかと思います。
北海道の日本酒文化というのは、それほど古くからあるものではありません。
酒蔵も10蔵程度と、土地の広さに比べて少ないです。
北海道という土地の歴史的に、地元の酒が根付かない、珍しい土地とも言えるかもしれません。
そうした背景から、北海道の外に発信していくというのは、ある意味で正解なのかもしれません。
えぞ乃熊は、主に関東方面や近畿地方などに扱いのある酒屋さんが多いようです。
とあるチェーン系の居酒屋の定番メニューにあるとも見たことがあります。
北海道で飲めない道産酒というのも不思議ですが、見かけたら是非一度試して見て下さい。
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