私たちは、日本酒について語る時に“お酒を醸造する”という表現を使います。
そもそも“醸造”という言葉の定義とはなにかということについて考えてみたことはあるでしょうか?
ここでは、醸造とは何かということを明確にすることによって、日本酒と他のアルコールの違いなどへの理解を深めたいと思います。
日本酒を「醸造」するとは?麹菌を使った発酵の文化は日本だけ
「醸造」=「カビを使った発酵」
つまり、“日本特有のカビ発酵”を醸造と言います。
もともとは日本酒だけでなく、味噌や醤油を発酵することも醸造と呼びましたが、現代では日本酒以外の発酵食品にはあまり使われなくなりました。
それは近代以降に世界中の発酵食品がもたらされた結果、“醸造”という言葉の意味がアップデートされ、
醸造=主にアルコール飲料などをつくる液体発酵
を指す言葉に変わりました。
この近代以降の“醸造”の定義では、“ワイン醸造” “ビール醸造”という呼び方が成立します。
なぜお酒なのかということは、醸造の“醸”という漢字の語源を辿ると理解が深まります。
次でもう少し詳しく見ていきましょう。
「醸造」の語源は”モノをお祓いして壺にお酒を仕込む”
醸造の“醸”という漢字の偏(へん・左側)は“酒を仕込む壺”を表し、旁(つくり・右側)は、“モノをお祓いして壺にお酒を仕込む”という意味があります。
日本の文脈では、酒造りが麹発酵の起源であることから、“麹で醸すこと”が醸造の起源となりましたが、中国の文脈では“酒を醸すこと”が醸造の語源になります。
実は“醸造”にあたる英語及び主要ヨーロッパ言語は存在しません。
一般的な“発酵を意味する”fermentation”をあてるか、あるいは醸造する対象にあわせ訳語をあてます。
日本的な”麹を使った発酵“という語源に関しては、対応する単語がありません。
というのも、麹菌を使った発酵の文化は日本だけに存在するからです。
次に中国的な語源の”お酒をつくる発酵”に関してはどうかというと、ビール醸造は“Brewing”、ワイン醸造は“Vinification”、ウィスキーやブランデー、ジンなどの蒸留酒のもろみ(酒母)づくりは、“Brewing”、その後の蒸留は“Distillation”と使い分けます。
ちなみに日本酒の醸造のことを英語では、ビールと同様に”穀物を醸す酒”なので、“Sake brewing”といいます。
麹を使った発酵のプロセスについて
次に、再び日本的な語源の“麹を使った発酵”(=醸造)のプロセスについて見てみたいと思います。
第1段階(甘酒・塩麹)
まず麹菌によって酵素が生み出されます。
主に2つの酵素があり、タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)と、でんぷん分解酵素(アミラーゼ)の働きで、タンパク質が分解されアミノ酸に、でんぷんが分解されてブドウ糖になります。
この段階で出来上がる麹による発酵食品が甘酒や塩麹などです。
第2段階(味噌・醤油)
このあと、乳酸菌が増殖します。
(人工的に乳酸菌を添加する場合もありますが、基本的には自然発生的に乳酸菌が発生します。)
乳酸菌とは有機酸を作り出す微生物で、糖分の一部を様々な有機酸に変えることで、爽やかな酸味と味の伸びや深みが生まれます。
その後自ら産んだ酸で乳酸菌は急激に死滅・減少することで諸味のphが下がり、酵母菌が活動しやすい環境が整います。
この段階で出来上がる麹による発酵食品が味噌や醤油です。
第3段階(酒・みりん)←日本酒はここ
乳酸発酵によってphが5.5以下に低下すると、酵母菌が増殖します。
でんぷんからできたブドウ糖をもとに、酵母菌はアルコールを生み、さらに乳酸菌が生んだ有機酸と化学反応をして、複雑な香りを生み出します。
ちなみに、酵母菌は酸素を得て増えるため、定期的な撹拌で酸素を循環させることが必要となります。
この段階で出来上がる麹による発酵食品が酒(日本酒も含む)やみりんです。
第4段階(酢)
その後さらに、空気中に多く存在している酢酸菌が増殖することにより酢酸発酵が行われ、そこで生み出される発酵食品が酢と呼ばれます。
このように、麹による発酵食品が出来上がる(=醸造)過程は、数多くの微生物が役目を果たしたら死んでいくという、命のリレーによって成り立っています。
この微生物の神秘的な働きにとって最適な環境を整えるということこそ、私たち人間が発酵食品をつくること(=醸造)のプロセスであるといえます。
さいごに
醸造の語源やプロセスについてご紹介しました。
「醸造」と一言で言ってもその過程において様々な発酵食品ができてきます。
微生物たちの働きによって、私たちの生活に欠かせない日本酒をはじめとする味噌や醤油などの発酵食品が生まれてきているんですね。
プロセスを知って、その違いがわかるとより日本酒が楽しくなりますのでぜひ覚えておいてくださいね!
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