成田空港の近くに位置する千葉県神崎市というちいさな町に、江戸時代から24代続く「寺田本家」という小さな酒造があります。
“自然酒造り”にこだわったユニークな酒造りで有名です。
そんな寺田本家の「むすひ」についてご紹介します。
本当の”酒は百薬の長”ー自然酒造りにこだわる日本酒「むすひ」
寺田本家の酒造りの大きな特徴は、
- 米を削らない
- 野生の菌を使う
- 雑味や酸味を許容する
と言えます。
寺田本家の主要銘柄の酒造りでは、ほとんど米を削りません。
米を削らないと、米の表面付近にあるタンパク質が残るため、麹菌の分解酵素によってアミノ酸などの旨味成分が多く発生します。
これは発酵を進める中では雑味に変わり、酒の色が濁ったり、飲みくちが重くなる原因になります。
寺田本家では、米を削らないで起こるこれらのことを許容した酒造りをします。
なかには全く精米しない玄米から醸した酒もあります。
これは奈良〜室町の中世の時代の文献に記された非常に古い方法であり、玄米から麹をつくるには手間もかかります。
現代の酒造りにおいて、発酵の主役となる麹菌と酵母は業界基準のものを外から購入して使用することがほとんどで、乳酸菌が働くプロセスを省略する速醸づくりがメジャーです。
しかし寺田本家では、地元の田んぼから採取した野生の麹菌、蔵に住み着いている野生の酵母で酒を醸し、酒母ができる時に自然発生する乳酸菌も取り入れます。
したがって、業界標準に比べるとかなり野生の菌の力を引き出した酒造りであると言えます。
これらのことから”自然酒造り”と言っています。
自然酒造りの原点-寺田啓佐氏の遺した「発酵道」
寺田本家が、なぜこのような“自然酒造り”をするようになったかを知るために、23代目当主 故・寺田啓佐氏の遺した「発酵道―酒蔵の微生物が教えてくれた人間の生き方」という1冊の本を紹介したいと思います。
江戸時代の延宝年間(1673~81年)に創業、以来300年の歴史を持つ造り酒屋“寺田本家”に婿入りした先代の寺田啓佐氏。
『発酵道』のなかで、酒造りを通して見られる様々な微生物の在り方から、人間の生き方を学ぶということについて語っています。
寺田氏が婿入りした頃(1974年)は、日本中で効率とスピードを求めて日本酒づくりが伝統的な方法から近代化された真っ只中でした。
寺田本家も他の酒造と同様、儲けを上げるために近代化された酒造りをし、また大手メーカーへの桶売りなどをしていました。
ところが寺田氏は自身の病気がきっかけで、自身の生き方を見つめ直し、利益を追求するのではなく本来のありのままの姿で、他者と調和しながら生きる微生物の在り方に魅せられます。
そこから寺田氏は、利益や効率を求めるのではなく、いかに自然に沿った生き方、さらには酒造りをするかという挑戦を始めます。
非常に手間と時間の掛かる伝統的な酒造りの方法を復活させ、また原料の米も無農薬にするなどというとりくみを行ないます。
そうしてできる酒こそが、自社の利益追求のためではなく、人の役に立つ酒“百薬の長”であるというのが寺田氏の信念でした。
さらに酒造の野生の菌を採取して使用したり、また玄米だけの酒造りをするなど、当時の日本酒業界では掟破りと思われるような酒造りを始めます。
発芽玄米酒 『むすひ』
世間では当時、淡麗辛口酒がブームで米を多く削ることによるスッキリとした飲みくちの日本酒がもてはやされていました。
ところがそれとは全く逆で、玄米だけで酒が作れないかという掟破りの発想からできた酒が発芽玄米酒『むすひ』です。
この商品名は、『玄米と、水と微生物の生命力を結びつけることで、新たな生命を持つ酒を生み出したい』との思いを込めて付けられたそうです。
原料には、無農薬のコシヒカリが使われています。
玄米で麹を作るには通常より長い時間を要しますし、米を削らない分、いわゆる雑味と酸味が残り、また香りも独特です。
販売にあたって国税局に申請したところ、『清酒』とは認められず、『その他の雑酒2』という括りになったといいます。
一般的に酒好きが“うまい”と表する酒とは程遠い味になったと寺田氏は語っていますが、それでも
『飲んでいるうちに癖になる酒だ』
『日本酒と思わないで飲むと、深みのあるいい味だ』
『酵母が生きているので、味の変化が楽しめる』
などその独特の風味が次第に評価されました。
出荷前に一切火入れしない酒を『生酒』と呼びますが、『むすひ』は生酒であるだけでなく、発酵力の強い玄米の酒は瓶のなかで、出荷後も酵母が生き、発酵・熟成が進みます。
このため『むすひ』には、開栓する際に一度に栓を開けてしまうと中身が噴出してしまうおそれがあるので、“ゆっくりと少しずつ開栓してください”という注意書きが添えられています。
さいごに
消費者からは『むすひ』を飲み始めてから血糖値が下がった、体調が良くなったという報告が次々と入り、まさに“百薬の長”といえる酒ができあがったといいます。
寺田氏は著書のなかで、こうして酒造りの過程であらわれるあらゆる微生物の働きによって、われわれ日本人は生かされてきた、他と競走するのではなく、自然に従って和をなす微生物のような生き方こそ、私たち人間のあるべき姿なのではないかということを語っています。
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